イイギリ《おしゃべり》

東京都八王子の医療刑務所の高い塀の向こうに、大きなイイギリの木があった。渋滞の国道、動かないバスの窓から眺めた街の景色だ。
冬の初めになると、横に張り出した枝にたわわに実る赤い実が本当に綺麗で、暮へと向かう時間を急き立てるような喧騒と、冷たい風が支配する季節の中で、そこだけがぽっとふんわり暖かく感じられた。
刑務所という異空間と、童話の挿絵のようなイイギリの実が印象的な場所だった。

私の知っていたイイギリの実はいつも、葉を落として枝だけになった大きな木に、沢山の真っ赤な実が垂れ下がっていた。
沖縄に来て始めての秋に森で見た自生のイイギリは、まだ黄緑の大きな葉の中に赤い実をつけていて、それが同じ植物とはとても思えなかった。
甲府の葡萄園にでも迷い込んだかのような、不思議な感覚が好きで毎年この季節の楽しみの一つになのだ。
この一瞬のような期間を逃すと、沢山あった実はヒヨドリ達に食べられ、黄緑の大きな葉もいつの間にか落ちてしまう。

イイギリは漢字にすると「飯桐」昔は大きな葉に飯を包んでお弁当にしたことから、その名が生まれたそうだ。
春になったら「飯桐弁当」を作ってみようと思うのだけど、高い木の上の葉には手が届かない。
それよりヒヨドリが落とした赤い実を一粒食べてみようかな・・・
（良い子は真似をしてはいけません）

イイギリの写真はhttp://kijimunaa.cocolog-nifty.com/mikke/2007/10/post_1990.htmlにあります